ヘルプ - 分析条件詳細

解析手法の概要

サンプルからの化合物の抽出、分析、およびデータ解析方法は、下記の論文に記載した通りです。

The Thing Metabolome Repository family (XMRs): comparable untargeted metabolome databases for analyzing sample-specific unknown metabolites.
Sakurai N, Yamazaki S, Suda K, Hosoki A, Akimoto N, Takahashi H, Shibata D and Aoki Y
Nucleic Acids Research Database Issue) 51 (D1): D660-D677 (2023)
DOI: 10.1093/nar/gkac1058

訂正

以前のものレポの記載および論文の記載に、以下の通り誤りがありましたので、訂正いたします。
質量分析の条件の、Active ExclusionのRelease条件について、
(正)0.2 min
(誤)0.3 min

変更

2025年8月31日のアップデートから、Mockの差し引き方法を変更したため、各サンプルにおけるピーク数が少し増えました。
- 従来公開していたデータも再計算しています
- 従来のデータから削除されるピークはありません。
- 従来のピークIDは、そのまま変わりません。

【Mockの差し引き方法を変更した理由】
従来は、Mock(ネガティブコントロール)に少しでもピークが検出されていた場合に、無効なピークとして除外していました。しかし、強度が強いピークについては、Mockにわずかなキャリーオーバーが生ずる場合があるため、サンプルを特徴づけるピークが除外されていることがありました。そこで、サンプルとMockのシグナル(面積値)を比較し、サンプルにおいてMockの100倍以上のシグナルが得られている場合は、有効ピークとして残すことにしました。


データ解析のヒント

姉妹サイトである食品メタボロームレポジトリ(食レポ)植物メタボロームレポジトリ(植レポ)とは 異なる分析装置を用いているため、データの比較の際には以下にご注意ください。

  • 質量値での検索の差異の質量誤差範囲を、20 ppmに設定することをお勧めします。
    質量測定精度は、食レポ・植レポよりも低く、通常 5 ppm以下ですが、5 ppmを超える場合もあります。また、 ネガティブモードの低分子側(m/z 200以下)の強度が低いピークで精度が低くなる場合があり、 16 ppm程度の誤差を生じることがあります。
  • LCの溶出時間が食レポ・植レポと異なります。カラムやグラジエントプログラムが異なるためです。
  • 物レポでは、多段階MSが取得されておらず、MS/MSスペクトルのみとなります。
  • 物レポのMS/MSスペクトルは、同じ成分でも、食レポ・植レポのMS2スペクトルと異なる場合があります。また、低分子側(m/z 300以下程度)で 特にネガティブモードにおいて、十分な開裂が起きていない場合があります。

解析方法の詳細

解析方法について、上記の論文に掲載した内容を、それ以降の修正・変更を含めて、以下に記載します。

化学成分の抽出

植物の葉など、水分を含む固形試料は、液体窒素下で乳鉢乳棒で粉砕しました。 液体試料はそのまま用いました。試料の 3倍量(w/v)または3倍容(v/v)の100%メタノールを添加し、終濃度約75%メタノールとしました。 75%メタノール溶液に混和しない、精油のような試料は、4倍容(v/v)の75%メタノールを添加しました。 乾燥試料の場合は、40または100倍量(w/v)の75%メタノールを添加し、終濃度約75%メタノールとしました。 用いたメタノールには、質量分析での内部標準として、1μMの7-ヒドロキシ-5-メチル フラボン(C16H12O3)が添加されています。21分付近の溶出時間に必ず検出されるピーク([M+H]+: 253.0859207 、[M-H]-: 251.0713678)は、この内部標準物質です。 メタノールを添加した試料は、Mixer Mill MM 400 (Verder Scientific社)にて、5 mmジルコニアビーズ1粒とともに2 mL チューブ中で25 Hz, 2 min, 2回の条件で激しく撹拌し、その後、 17,400×g, 5 min, 4℃で遠心分離しました。遠心上清、または、 液相が二層に分離した場合は、メタノールを含む層を、C18シリカカラム(MonoSpin C18、 GLサイエンス社)に通して疎水性の強い成分を吸着除去しました。 C18カラムを通過した液を、さらにポアサイズ0.2μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE) フィルター(Millipore社)で濾過して微粒子を除去しました。 回収した液を、液体クロマトグラフィー-質量分析に供試しました。

試料を含まない75%メタノール抽出液で、全く同じ処理を行ったもの(mockサンプル)を準備し、 ネガティブコントロールとして用いました。

液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)

液体クロマトグラフィーとしてNexera X2システム(島津製作所)を用いました。上記までに調製したメタノール抽出試料2μLを、 LC装置に接続したカラムInertSustain AQ-C18 (3μm x 2.1 mm x 150 mm, GLサイエンス社、 ガードカラムとしてInertSustain AQ-18カートリッジカラムE 3μm x 3.0 mm x 10 mmを使用)にロードし、 溶媒A(0.1%(v/v)ギ酸を含むLC-MSグレードの水)と溶媒B(LC-MSグレードのアセトニトリル)によるリニアグラジエントにより 分離しました。カラム温度は40℃としました。 グラジエントプログラムは、2% B (0 min), 2% B (3 min), 98% B (30 min), 98% B (35 min), 2% B (35.01 min), 2% B (42 min)です。流速は、0.20 mL/minとしました。

質量分析として、Compactシステム(ブルカー社)を用いました。 エレクトロスプレーイオン化(ESI)により陽イオン(ポジティブモード)および陰イオン(ネガティブモード)に イオン化された成分の質量を測定しました。 装置の設定条件は以下です。

ポジティブモード

MS設定

データ取得:  プロファイルモード,  Polarity  Positive,  Scan rate:  1 Hz,  Mass scan range:  50-1200,  End plate offset:  500 V,  Capillary voltage:  4000 V,  Nebulizer bas (N2) pressure:  2.5 Bar,  Dry gas (N2) flow:  8.0 L/min,  Dry gas temperature:  200℃,  Transfer Funnel1 RF:  200.0 Vpp,  Funnel2 RF:  200.0 Vpp,  In-source CID Energy:  0.0 eV,  Hexapole RF:  50.0 Vpp,  Quadrupole Ion Energy:  3.0 eV,  Low Mass m/z:  55.00,  Collision energy:  10.0 eV,  Collision RF:  450.0 Vpp,  Transfer Time:  80.0 us,  PrePulse Storage:  3.0 us 

MS/MS設定

Auto MS/MS:  on,  Precursor ion number:  5,  Isolation width:  3 - 15 Da,  Collision energy:  35 eV,  Active Exclusion:  on,  Exclude:  after 3 Spectra,  Release:  after 0.2 minReconsider Precursor:  on,  if Current Intens. / Previous Intens.:  2.0 

ネガティブモード

上記ポジティブモードと同様ですが、以下の点が異なります。
Polarity:  Negative,  MS/MS Collision energy:  30 eV, 

LCの流路切り替えにより、0-3 minの間の溶出液は廃棄しました。また、 キャリブレーション試薬測定のため、流路切り替えにより38.5-40.5 minの間に、 1 mM ギ酸ナトリウム 50%(v/v) 2-プロパノール液を0.1 mL/minでイオン源に直接送液し、測定しました。 0-3分のシグナルは、流路切り替えにともなうキャリブレーション液の自然吸入によるものです。 データの取得はHystarソフト(Bruker社)にて行いました。 1つの試料につき、ポジティブモード、ネガティブモードをそれぞれ1回ずつ分析しました。 同じ測定バッチにおいて、1つのmockサンプルを、ポジティブモード、ネガティブモードそれぞれ2回ずつ分析しました。

データ解析

下記PowerGetBatchソフトの設定ファイルは、ここで入手できます。

質量値のキャリブレーションとmzXMLファイルの作成

39分から40分に溶出したギ酸ナトリウムのシグナルをもとに、Compass DataAnalysisソフトウェア(ver. 4.2 Bruker Daltonik, GmbH)を用いて 質量値のキャリブレーションを行いました。キャリブレーション後のマスクロマトグラムのデータを、 ProteoWizardソフト(ver. 3.0, )を用いて、mzXML形式の ファイルに変換しました。

ピーク検出

強度の低いピークまで検出することが可能なPowerGetBatchソフト を使用しました。
各試料についてポジティブモードとネガティブモードで1回ずつ分析したデータに対して、それぞれ3種類の異なる検出パラメーターセットを 用いてピーク検出を行いました。 同じ測定バッチにおいて、各モードでそれぞれ2回ずつ測定したmock試料については、1種類の検出パラメーターでピーク検出を行いました。 各モードについて、3種類のパラメーター設定で得た試料データと、2つのmockデータを使って、PowerGetBatchによりピークの アラインメントを行いました。 3つの試料データで3回とも検出されており、2つのmockデータに検出されていないか、あるいは、3つの試料データのピーク強度の平均値が2つのmockデータの平均値の100培以上(ログ10に変換し中央値補正した後の値の平均値の差が2以上)である場合に、 そのピークを有効ピークとしました。ただし、LCの溶出時間が3分以下、32分以上のピークは除外しました。
MS/MSスペクトルが得られている場合は、アラインメントしたデータの中で最も強度が強く、パターンの中で 優勢を占めるスペクトルを1つずつ選び、ピークに関連づけました。

既知化合物データベース検索

測定されたm/z値と、判定されたアダクト情報を用いて、化合物データベースへの検索を行いました。 対象としたデータベースは以下です。 KEGG, KNApSAcK, Human Metabolome Database (HMDB), LipidMAPS, metabolomics.jpに掲載されたフラボノイドデータベース これらのデータベースを高速に横断検索するため、実際の検索は、 MFSearcherウェブサービスを介して実施しました。 MFSearcherの中でも、データベース間で同一の化合物のレコードをひとまとめにすることが可能な UC2データベースを使うことにより、より簡潔な 結果提示を行っています。

通常のLC-MS分析で区別することができない光学異性体は、同じレコードとして示されていますので、ご注意ください。 ピークの詳細情報ページで見られる、化合物IDに付随した[-1fr]などの記号は、元のデータベースでどのような 状態で描かれていたかを示しています。数字:チャージ、f:塩などの複数コンポーネントの一つ、r:ラジカルを表しています。

フラボノイドアグリコンの予測

ポジティブモードで、MS/MSスペクトルが得られているピークについて、 FlavonoidSearchを用いて フラボノイドのアグリコンの予測を行いました。 FlavonoidSearchは、マススペクトルから、フラボノイドのアグリコンを判別することができる 解析ツールです。