解析手法
姉妹サイトである食品メタボロームレポジトリ(食レポ)や 植物メタボロームレポジトリ(植レポ)とは 異なる分析装置を用いているため、データの比較の際には以下にご注意ください。
- 質量値での検索の差異の質量誤差範囲を、20 ppmに設定することをお勧めします。
質量測定精度は、食レポ・植レポよりも低く、通常 5 ppm以下ですが、5 ppmを超える場合もあります。また、 ネガティブモードの低分子側(m/z 200以下)の強度が低いピークで精度が低くなる場合があり、 16 ppm程度の誤差を生じることがあります。 - LCの溶出時間が食レポ・植レポと異なります。カラムやグラジエントプログラムが異なるためです。
- 物レポでは、多段階MSが取得されておらず、MS/MSスペクトルのみとなります。
- 物レポのMS/MSスペクトルは、同じ成分でも、食レポ・植レポのMS2スペクトルと異なる場合があります。また、低分子側(m/z 300以下程度)で 特にネガティブモードにおいて、十分な開裂が起きていない場合があります。
化学成分の抽出
植物の葉など、水分を含む固形試料は、液体窒素下で乳鉢乳棒で粉砕しました。 液体試料はそのまま用いました。試料の 3倍量(w/v)または3倍容(v/v)の100%メタノールを添加し、終濃度約75%メタノールとしました。 75%メタノール溶液に混和しない、精油のような試料は、4倍容(v/v)の75%メタノールを添加しました。 乾燥試料の場合は、40または100倍量(w/v)の75%メタノールを添加し、終濃度約75%メタノールとしました。 用いたメタノールには、質量分析での内部標準として、1μMの7-ヒドロキシ-5-メチル フラボン(C16H12O3)が添加されています。21分付近の溶出時間に必ず検出されるピーク([M+H]+: 253.0859207 、[M-H]-: 251.0713678)は、この内部標準物質です。 メタノールを添加した試料は、Mixer Mill MM 400 (Verder Scientific社)にて、5 mmジルコニアビーズ1粒とともに2 mL チューブ中で25 Hz, 2 min, 2回の条件で激しく撹拌し、その後、 17,400×g, 5 min, 4℃で遠心分離しました。遠心上清、または、 液相が二層に分離した場合は、メタノールを含む層を、C18シリカカラム(MonoSpin C18、 GLサイエンス社)に通して疎水性の強い成分を吸着除去しました。 C18カラムを通過した液を、さらにポアサイズ0.2μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE) フィルター(Millipore社)で濾過して微粒子を除去しました。 回収した液を、液体クロマトグラフィー-質量分析に供試しました。
試料を含まない75%メタノール抽出液で、全く同じ処理を行ったもの(mockサンプル)を準備し、 ネガティブコントロールとして用いました。
液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)
液体クロマトグラフィーとしてNexera X2システム(島津製作所)を用いました。上記までに調製したメタノール抽出試料2μLを、
LC装置に接続したカラムInertSustain AQ-C18 (3μm x 2.1 mm x 150 mm, GLサイエンス社、
ガードカラムとしてInertSustain AQ-18カートリッジカラムE 3μm x 3.0 mm x 10 mmを使用)にロードし、
溶媒A(0.1%(v/v)ギ酸を含むLC-MSグレードの水)と溶媒B(LC-MSグレードのアセトニトリル)によるリニアグラジエントにより
分離しました。カラム温度は40℃としました。
グラジエントプログラムは、2% B (0 min), 2% B (3 min), 98% B (30 min), 98% B (35 min),
2% B (35.01 min), 2% B (42 min)です。流速は、0.20 mL/minとしました。
質量分析として、Compactシステム(ブルカー社)を用いました。 エレクトロスプレーイオン化(ESI)により陽イオン(ポジティブモード)および陰イオン(ネガティブモード)に イオン化された成分の質量を測定しました。 装置の設定条件は以下です。
ポジティブモード
MS設定
データ取得: プロファイルモード, Polarity Positive, Scan rate: 1 Hz, Mass scan range: 50-1200, End plate offset: 500 V, Capillary voltage: 4000 V, Nebulizer bas (N2) pressure: 2.5 Bar, Dry gas (N2) flow: 8.0 L/min, Dry gas temperature: 200℃, Transfer Funnel1 RF: 200.0 Vpp, Funnel2 RF: 200.0 Vpp, In-source CID Energy: 0.0 eV, Hexapole RF: 50.0 Vpp, Quadrupole Ion Energy: 3.0 eV, Low Mass m/z: 55.00, Collision energy: 10.0 eV, Collision RF: 450.0 Vpp, Transfer Time: 80.0 us, PrePulse Storage: 3.0 us
MS/MS設定
Auto MS/MS: on, Precursor ion number: 5, Isolation width: 3 - 15 Da, Collision energy: 35 eV, Active Exclusion: on, Exclude: after 3 Spectra, Release: after 0.3 min, Reconsider Precursor: on, if Current Intens. / Previous Intens.: 2.0
ネガティブモード
上記ポジティブモードと同様ですが、以下の点が異なります。
Polarity: Negative,
MS/MS Collision energy: 30 eV,
LCの流路切り替えにより、0-3 minの間の溶出液は廃棄しました。また、 キャリブレーション試薬測定のため、流路切り替えにより38.5-40.5 minの間に、 1 mM ギ酸ナトリウム 50%(v/v) 2-プロパノール液を0.1 mL/minでイオン源に直接送液し、測定しました。 0-3分のシグナルは、流路切り替えにともなうキャリブレーション液の自然吸入によるものです。 データの取得はHystarソフト(Bruker社)にて行いました。 1つの試料につき、ポジティブモード、ネガティブモードをそれぞれ1回ずつ分析しました。 同じ測定バッチにおいて、1つのmockサンプルを、ポジティブモード、ネガティブモードそれぞれ2回ずつ分析しました。
データ解析
下記PowerGetBatchソフトの設定ファイルは、ここで入手できます。
質量値のキャリブレーションとmzXMLファイルの作成
39分から40分に溶出したギ酸ナトリウムのシグナルをもとに、Compass DataAnalysisソフトウェア(ver. 4.2 Bruker Daltonik, GmbH)を用いて 質量値のキャリブレーションを行いました。キャリブレーション後のマスクロマトグラムのデータを、 ProteoWizardソフト(ver. 3.0, )を用いて、mzXML形式の ファイルに変換しました。
ピーク検出
強度の低いピークまで検出することが可能なPowerGetBatchソフト
を使用しました。
各試料についてポジティブモードとネガティブモードで1回ずつ分析したデータに対して、それぞれ3種類の異なる検出パラメーターセットを
用いてピーク検出を行いました。
同じ測定バッチにおいて、各モードでそれぞれ2回ずつ測定したmock試料については、1種類の検出パラメーターでピーク検出を行いました。
各モードについて、3種類のパラメーター設定で得た試料データと、2つのmockデータを使って、PowerGetBatchによりピークの
アラインメントを行いました。3つの試料データで3回とも検出されており、かつ2つのmockデータで一度も検出されなかったピークを、
有効ピークとしました。ただし、LCの溶出時間が3分以下、32分以上のピークは除外しました。
MS/MSスペクトルが得られている場合は、アラインメントしたデータの中で最も強度が強く、パターンの中で
優勢を占めるスペクトルを1つずつ選び、ピークに関連づけました。
既知化合物データベース検索
測定されたm/z値と、判定されたアダクト情報を用いて、化合物データベースへの検索を行いました。 対象としたデータベースは以下です。 KEGG, KNApSAcK, Human Metabolome Database (HMDB), LipidMAPS, metabolomics.jpに掲載されたフラボノイドデータベース これらのデータベースを高速に横断検索するため、実際の検索は、 MFSearcherウェブサービスを介して実施しました。 MFSearcherの中でも、データベース間で同一の化合物のレコードをひとまとめにすることが可能な UC2データベースを使うことにより、より簡潔な 結果提示を行っています。
通常のLC-MS分析で区別することができない光学異性体は、同じレコードとして示されていますので、ご注意ください。 ピークの詳細情報ページで見られる、化合物IDに付随した[-1fr]などの記号は、元のデータベースでどのような 状態で描かれていたかを示しています。数字:チャージ、f:塩などの複数コンポーネントの一つ、r:ラジカルを表しています。
フラボノイドアグリコンの予測
ポジティブモードで、MS/MSスペクトルが得られているピークについて、 FlavonoidSearchを用いて フラボノイドのアグリコンの予測を行いました。 FlavonoidSearchは、マススペクトルから、フラボノイドのアグリコンを判別することができる 解析ツールです。