解析手法
サンプルの選定
日本食品標準成分表2015年版(七訂)(文部科学省)から代表的な約220品目を選びました。 日本食品成分表には、調理方法の違いなどを含めて約2000品目が掲載されていますが、このうち、 日常の食卓によくのぼり、スーパーマーケットなどで入手しやすいものを約220品目を選びました。
サンプル調製
廃棄部位を除去したものを凍結粉砕して使用しました。標準成分表に廃棄部位の記載があるものは、 記載に従って、廃棄部位を除去しました。固形のサンプルは、液体窒素下で乳鉢・乳棒によりファインパウダー状に粉砕しました。 大型のため全体を凍結粉砕して均一化できないものは、なるべく全体をまんべんなく含むように切り出し、粉砕処理に 供試しました。たとえばスイカでは、ヘタから先端までの中心軸が、くし切りの直線部分になるようにくし切りにしたものを 用いました。
化学成分の抽出
75%メタノールで抽出しました。上記調製した試料は、終濃度約75%(v/v)のメタノールで抽出しました。 サンプル自体の含水率は厳密に測定していません。 液体や含水率の高い葉野菜などの試料は、3倍容(v/v)または3倍量(w/v)の100%メタノールを添加しました。のりなどの乾燥した試料は、 40倍量(w/v)の75%メタノールを加えました。なお、用いたメタノールには、質量分析での内部標準として、25μMの7-ヒドロキシ-5-メチル フラボンが添加されています。73分付近の溶出時間に必ず検出されるピークは、この内部標準物質です。 メタノールを添加した試料は、Mixer Mill MM 300 (QIAGEN社)にて、25 Hz, 2 min, 2回の条件で激しく撹拌し、その後、 17,400×g, 5 min, 4℃で遠心分離しました。遠心上清を、ポアサイズ0.2μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE) フィルター(Millipore社)で濾過して微粒子を除去したあと、濾液をC18シリカカラム(MonoSpin C18、 GLサイエンス社)に通して疎水性の強い成分を吸着除去しました。C18カラムを通過した試料を、液体クロマトグラフィー- 質量分析に供試しました。
試料を含まない75%メタノール抽出液で、全く同じ処理を行ったもの(mockサンプル)を準備し、 ネガティブコントロールとして用いました。
液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)
成分同定に有利な、長時間溶出と超高分解能質量分析を行いました。 液体クロマトグラフィーとしてAgilent 1100システム(Agilent社)、その下流に接続した質量分析器として Finnigan LTQ-FT(Thermo Fisher Scientific社)を用いました。上記までに調製したメタノール抽出試料5μLを、 LC装置に接続したTSK-gel ODS-100Vカラム(4.6×250 mm, 5μm, 東ソー社)にロードし、溶媒A(0.1%(v/v)ギ酸を含む HPLCグレードの水)と溶媒B(0.1%(v/v)ギ酸を含むHPLCグレードのアセトニトリル)によるリニアグラジエントにより 分離しました。グラジエントプログラムは、3% B (0 min), 97% B (90 min), 97% B (100 min), 3% B (100.1 min), 3% B (107 min)です。流速は、0-100 minの分離時間が0.25 mL/min、100.1-107 minのウォッシュ時間が0.5 mL/minと しました。
各サンプルについき、以下の3つの条件で、1回ずつの質量分析を行いました。
メソッド名 | 解説 |
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Method 1 Positive | 成分の精密質量を得ながら、多くのMS/MSスペクトルを取得する条件設定です。陽イオン分析(ポジティブモード)です。 フルスキャン: 分解能100,000 フーリエ変換型質量分析(FT) MS2スキャン: フルスキャンで得た強度の強い上位5つのイオンについて、イオントラップ型質量分析(IT)。 |
Method 5 Positive | 多くのMS3スペクトルを取得する、ポジティブモードです。 フルスキャン: 分解能12,500 (FT) MS2スキャン: フルスキャンで得た強度の強い上位5つのイオン (IT) MS3スキャン: MS2スキャンで得た強度の強い上位2つのイオン (IT) |
Method 1 Negative | 成分の精密質量を得ながら、多くのMS/MSスペクトルを取得する条件設定です。陰イオン分析(ネガティブモード)です。 |
FTによるフルスキャンのm/zレンジは100-1500です。
MS2取得時のダイナミックエクスクルージョン設定は、いずれも次の通りです: repeat count, 3; repeat duration, 30 s; exclusion list size, 500; margin, 10 ppm; exclusion duration, 20 s。
データの取得はXcaliburソフト(Thermo Fisher Scientific)にて行いました。
データ解析
PowerGetBatchソフトでなるべく多くのピークを拾い、化合物データベースへの検索と、FlavonoidSearchによるフラボノイド 推定を行いました。強度の低いピークまで検出することが可能なPowerGetBatchソフト (Sakurai and Shibata. Carotenoid Science 22: 16-22, 2017)を使用して、ピーク検出を行いました。
ピーク検出
ポジティブモード、 ネガティブモードそれぞれのMethod 1のデータを、3つの異なるピーク検出条件で解析しました。Method 5およびMock については、 1つの条件でピーク検出を行いました。ポジティブモードでは、Method 1×3、Method 5×1および同時期に反復測定した 複数のMock分析のデータを合わせて、サンプル間でのピークのアラインメントを取りました。ネガティブモードでは、 Method 1×3と複数のMock分析のデータでアラインメントを行いました。ポジティブ、ネガティブそれぞれのアラインメントで、 Method 1における3つのピーク検出結果で必ず検出されており、かつMock分析で一度も検出されていないものを、 有効な検出ピークとしました。 有効と判定されたピークで得られたMS2およびプリカーサーイオンの異なるMS3データのうち、強度が強くパターンの中で 優勢を占めるスペクトルを1つずつ選び、ピークに関連づけました。
データベース検索
Method 1で得られた精密質量と、判定されたアダクト情報を用いて、化合物データベースへの検索を行いました。 対象としたデータベースは、 KEGG, KNApSAcK, Human Metabolome Database (HMDB), LipidMAPS, metabolomics.jpに掲載されたフラボノイドデータベース です。これらのデータベースを高速に横断検索するため、実際の検索は、 MFSearcherウェブサービスを介して実施しました。 MFSearcherの中でも、データベース間で同一の化合物のレコードをひとまとめにすることが可能な UC2データベースを使うことにより、より簡潔な 結果提示を行っています。
通常のLC-MS分析で区別することができない光学異性体は、同じレコードとして示されていますので、ご注意ください。 ピークの詳細情報ページで見られる、化合物IDに付随した[-1fr]などの記号は、元のデータベースでどのような 状態で描かれていたかを示しています。数字:チャージ、f:塩などの複数コンポーネントの一つ、r:ラジカルを表しています。
フラボノイドサーチ
ポジティブモードでは、MS2, MS3スペクトルを FlavonoidSearchにかけた結果を 付記しています。FlavonoidSearchは、マススペクトルから、フラボノイドのアグリコンを判別することができる 解析ツールです。高いヒットスコア(通常0.3以上)が得られている場合、フラボノイドである可能性が高く、 候補として、既知のアグリコンが示されています。
FlavonoidSearchは、経験則などを元に、標品のないフラボノイドについてマススペクトルを擬似的に構築し、 その類似性を実測値と比較しています。約7000のフラボノイドのうち、約4500については疑似スペクトルを構築 できましたが、残りの2500については、経験則データが不足しているなどの理由で、疑似スペクトルが構築できて いません。このため、プリカーサー質量が一致する候補は、FlavonodSearchのスコアがゼロでも、 結果を提示することにしています。
分析の詳細について
Metabolonoteウェブサイトに、さらに詳細な記載があります。 通常、いくつかの試料をまとめて同時期にデータ取得をしています。まとめて分析したサンプルは、 同じMetabolonoteのサンプルセット(SE)としてまとめられています。 各食品のピーク一覧ページ(例えばコムギのページ)の下部にあるリンク よりご参照ください(リンク先の例:(コムギを分析したとき の詳細情報のページ))。