ヘルプ - 分析条件詳細

解析手法

ここでは全サンプルに共通する分析条件について紹介します。
個々の植物の栽培方法を含めた詳しい実験条件については、Metabolonoteというウェブサイトに 記載されています。 各サンプルのピーク一覧ページ(例えばシロイヌナズナ) の下部にあるMetabolonoteへのリンクボタン(例、SE200_S1_M90)を押してご確認ください。
リンク先の例:(シロイヌナズナを分析したとき の詳細情報のページ)

LCの溶出条件とMS1の取得方法は食品メタボロームレポジトリ(食レポ)と 同一であるため、精密質量に加えて、LCの溶出時間もほぼ比較が可能です。ただし、分析した時期が様々なため、 溶出時間の再現性は食レポよりも若干劣ります。 食レポと異なる部分は、MS/MSの取得条件が食品レポよりも多いことと、有効ピークを選択する基準が実験の繰り返し状況に応じて 試料ごとに異なっていることです。

化学成分の抽出

試料を液体窒素下で乳鉢乳棒で粉砕しました。液体試料はそのまま用いました。試料の 3倍容(v/v)または3倍量(w/v)の100%メタノールを添加し、終濃度75%メタノールとして抽出ました。 用いたメタノールには、質量分析での内部標準として、25μMの7-ヒドロキシ-5-メチル フラボンが添加されています。73分付近の溶出時間に必ず検出されるピークは、この内部標準物質です。 メタノールを添加した試料は、Mixer Mill MM 300 (QIAGEN社)にて、25 Hz, 2 min, 2回の条件で激しく撹拌し、その後、 17,400×g, 5 min, 4℃で遠心分離しました。遠心上清を、ポアサイズ0.2μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE) フィルター(Millipore社)で濾過して微粒子を除去したあと、濾液をC18シリカカラム(MonoSpin C18、 GLサイエンス社)に通して疎水性の強い成分を吸着除去しました。C18カラムを通過した試料を、液体クロマトグラフィー- 質量分析に供試しました。

試料を含まない75%メタノール抽出液で、全く同じ処理を行ったもの(mockサンプル)を準備し、 ネガティブコントロールとして用いました。

液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)

液体クロマトグラフィーとしてAgilent 1100システム(Agilent社)、その下流に接続した質量分析器として Finnigan LTQ-FT(Thermo Fisher Scientific社)を用いました。上記までに調製したメタノール抽出試料5μLを、 LC装置に接続したTSK-gel ODS-100Vカラム(4.6×250 mm, 5μm, 東ソー社)にロードし、溶媒A(0.1%(v/v)ギ酸を含む HPLCグレードの水)と溶媒B(0.1%(v/v)ギ酸を含むHPLCグレードのアセトニトリル)によるリニアグラジエントにより 分離しました。グラジエントプログラムは、3% B (0 min), 97% B (90 min), 97% B (100 min), 3% B (100.1 min), 3% B (107 min)です。流速は、0-100 minの分離時間が0.25 mL/min、100.1-107 minのウォッシュ時間が0.5 mL/minと しました。

質量分析の条件として、以下を設定しました。

メソッド名 解説
Method 1 成分の精密質量を得ながら、多くのMS/MSスペクトルを取得する条件設定です。
フルスキャン: 分解能 100,000 フーリエ変換型質量分析(FT)、スキャンレンジ: m/z 100-1500
MS2スキャン: フルスキャンで得た強度の強い上位5つのイオンについて、イオントラップ型質量分析(IT)。
MS2スキャンのダイナミックエクスクルージョン設定:repeat count, 3; repeat duration, 30 s; exclusion list size, 500; margin, 10 ppm; exclusion duration, 20 s。
Method 2 Method 1と同じですが、以下が異なります。
MS2スキャンのダイナミックエクスクルージョン設定:exclusion duration, 30 s
Method 3 Method 1と同じですが、以下が異なります。
MS2スキャンのダイナミックエクスクルージョン設定:repeat count, 2; exclusion duration, 30 s
Method 4 Method 1と同じですが、以下が異なります。
MS2スキャンのダイナミックエクスクルージョン設定:なし
Method 5 多くのMS3スペクトルを取得するための設定です。
フルスキャン: 分解能 12,500 (FT)、スキャンレンジ: m/z 100-1500
MS2スキャン: フルスキャンで得た強度の強い上位5つのイオン (IT)
MS2スキャンのダイナミックエクスクルージョン設定:Method 1と同じ
MS3スキャン: MS2スキャンで得た強度の強い上位2つのイオン (IT)
Method 7 Method 5と同じですが、以下が異なります。
MS2スキャンのダイナミックエクスクルージョン設定:Method 2と同じ

エレクトロスプレーイオン化(ESI)を行い、ポジティブモードまたはネガティブモードで分析しました。 試料によって、上記のMethod 1~7およびポジティブ/ネガティブの組み合わせが異なりますが、Method 1~4の 少なくともどれか一つで、イオンの精密質量を測定したデータは必ず取得されています。

データの取得はXcaliburソフト(Thermo Fisher Scientific)にて行いました。

データ解析

強度の低いピークまで検出することが可能なPowerGetBatchソフト (Sakurai and Shibata. Carotenoid Science 22: 16-22, 2017)を使用して、ピーク検出を行いました。

ピーク検出・アラインメント

生物学的な繰り返し、あるいは技術的な繰り返しのデータが3連以上ある場合は、 Method 1~4、およびMethod 5または7、について、それぞれ1つのパラメーター設定条件で ピーク検出を行いました。 繰り返し分析がないデータについては、Method 1~4のデータについて、3つの異なるパラメーター設定条件で ピーク検出を行いました。 ピーク検出データを、ポジティブモード、ネガティブモードそれぞれで、 全メソッドおよびMock分析を合わせてPowerGetBatchソフトウェアでアラインメントしました。 試料で再現よく検出されており、Mock分析で検出されていないものを、有効ピークとしました。 有効ピークの選抜は、Microsoft Excelソフトウェアで、試料個別に手作業で行いました。 有効と判定されたピークで得られたMS2およびプリカーサーイオンの異なるMS3データのうち、強度が強くパターンの中で 優勢を占めるスペクトルを1つずつ選び、ピークに関連づけました。

データベース検索

Method 1~4で得られた精密質量と、判定されたアダクト情報を用いて、化合物データベースへの検索を行いました。 対象としたデータベースは、 KEGG, KNApSAcK, Human Metabolome Database (HMDB), LipidMAPS, metabolomics.jpに掲載されたフラボノイドデータベース です。これらのデータベースを高速に横断検索するため、実際の検索は、 MFSearcherウェブサービスを介して実施しました。 MFSearcherの中でも、データベース間で同一の化合物のレコードをひとまとめにすることが可能な UC2データベースを使うことにより、より簡潔な 結果提示を行っています。

通常のLC-MS分析で区別することができない光学異性体は、同じレコードとして示されていますので、ご注意ください。 ピークの詳細情報ページで見られる、化合物IDに付随した[-1fr]などの記号は、元のデータベースでどのような 状態で描かれていたかを示しています。数字:チャージ、f:塩などの複数コンポーネントの一つ、r:ラジカルを表しています。

フラボノイドサーチ

ポジティブモードでは、MS2, MS3スペクトルを FlavonoidSearchにかけた結果を 付記しています。FlavonoidSearchは、マススペクトルから、フラボノイドのアグリコンを判別することができる 解析ツールです。高いヒットスコア(通常0.3以上)が得られている場合、フラボノイドである可能性が高く、 候補として、既知のアグリコンが示されています。

FlavonoidSearchは、経験則などを元に、標品のないフラボノイドについてマススペクトルを擬似的に構築し、 その類似性を実測値と比較しています。約7000のフラボノイドのうち、約4500については疑似スペクトルを構築 できましたが、残りの2500については、経験則データが不足しているなどの理由で、疑似スペクトルが構築できて いません。このため、プリカーサー質量が一致する候補は、FlavonodSearchのスコアがゼロでも、 結果を提示することにしています。